RESEARCH 研究

研究の目標:今の「治らない」「分からない」を未来の「治せる」「分かる」に

当講座では、目の前の患者さんの「治らない」「分からない」問題を「治せる」「分かる」問題にするための質の高い地域医療の実践と人材育成に加えて、今の医学では解決できない世界中の患者さんに共通する問題を将来解決できるようにするための研究を行っています。現在利用可能な知見を最新のものまで最大限に活用して患者さんやご家族の問題を解決する、あるいはそれをできる医療人を育成するという、当講座の使命である地域医療の維持・発展と当講座の研究とは両輪を成しています。すなわち、今の医学では「治せない」「分からない」アンメットニーズを将来「治せる」「分かる」ようにするために研究を行っています。Think globally, act locallyの実践をモットーに、目の前の患者さんやご家族のニーズに最大限に応えることと、世界の精神医学界をリードする研究を実践することを両立しています。

研究内容:無作為割り付け臨床試験、マルチモーダル脳分子イメージングから動物実験まで

臨床試験:「治せない」を「治せる」ように
オキシトシンを鍵とした自閉スペクトラム症中核症状に対する治療薬開発

自閉スペクトラム症(ASD)は、北米CDCの2018年の調査では約40人に1人の頻度で認められる発達障害です。ASDについては、社会的コミュニケーションの困難などの中核症状の治療法が未確立で、巨大なアンメットメディカルニーズとして、当事者さらには社会全体にも大きな負担となっています。さらに、客観的診断技術の欠如や、発症メカニズムが未解明であるなどの課題も残されています。
当講座主任の山末は、ASDの中核症状に対する世界初の治療薬を開発するため、既存のオキシトシン経鼻剤の単施設の探索的自主臨床試験から多施設検証的試験および全国規模の多施設医師主導治験を複数行い、中核症状やその脳画像バイオマーカーに対する有効性と安全性を示す結果を繰り返し報告し、世界をリードする研究成果を挙げてきました(JAMA Psychiatry 2014; BRAIN 2014; 2015; 2019; 2022; Mol Psychiatry 2015; 2020; 2021)。治療効果について、fMRIやMRSを用いた脳機能変化としての検出や表情や話口調や視線の特徴を客観数値化して解析したことも成果の特長です。これらの臨床試験から得た有効性あるいは実用に向けた課題に基づいて、学内外の多くの共同研究者や協力者の方々にお力添えいただいて、世界初のASD中核症状治療薬の実用化に向けて、さらに研究開発を進めています。こうした研究成果は、精神医学領域で初の日本医療研究開発大賞受賞(2018)やアジア初のCINP Clinical Research Award受賞(2023)など、国内外で高く評価されています。

心理療法分野

浜松医科大学精神科の臨床における強みである森田療法、認知行動療法、眼球運動による脱感作と再処理療法(EMDR)などの心理療法のさらなる改良やその効果検討および脳内メカニズム解明のための研究に取り組んでいます。最近では、EMDRが脳機能に及ぼす影響を示した研究(Cereb Cortex Commu 2021)、ASDに対して反芻思考に焦点を当てた認知行動療法の効果を検討する研究、摂食障害に対する認知行動療法や回復者を介した心理療法の効果を検討する研究、周産期における虐待予防に関する研究など、さまざまな臨床研究を行っています。

マルチモーダル脳分子イメージング:「分からない」を「分かる」ように

当講座では本学生体機能イメージング研究室や浜松ホトニクスとの共同研究として、MRIやPETを用いた画像研究を盛んに行ってきました。
MRI研究では、物質誘発性の精神病症状のMRS研究(Neuropsychopharmacology 2002; 2004)、ASD当事者のfMRIやMRS研究(Neuroreport 2003; Int J Neuropsychopharmacol 2010)、統合失調症患者のMRI研究(Ann Gen Psychiatry 2008)を報告しています。さらにPET研究では世界屈指の成果を挙げています。さらに、2016年6月から講座主任に着任した山末はPTSD(PNAS 2003; Ann Neurology 2007; Biol Psychiatry 2008)、統合失調症(NeuroImage 2004; Schizophrenia Bulletin 2013)、ASD(Biol Psychiatry 2010; JAMA Psychiatry 2014; BRAIN 2014; 2015; Mol Psychiatry 2015)などの研究で、MRI、fMRI、MRSを用いて世界トップレベルの研究成果を挙げてきた実績を持ち、本学赴任後もMRSを用いてASDでのオキシトシン反復投与による脳内グルタミン酸濃度の低下(Mol Psychiatry 2021)などの成果を上げています。
PET研究では、覚せい剤誘発性の精神病症状におけるドパミントランスポーターやセロトニントランスポーターの低下(Am J Psychiatry 2001, 2003, Arch Gen Psychiatry 2006)、ASD当事者でのドパミントランスポーターの上昇とセロトニントランスポーターの低下、アセチルコリンエステラーゼの低下、活性化ミクログリアの上昇、ドパミンD2受容体の低下と安静時脳機能結合性の関連、ミトコンドリア複合体Iの低下(Arch Gen Psychiatry 2010; 2011; JAMA Psychiatry 2013; Mol Psychiatry 2022; Am J Psychiatry 2022)、注意欠如多動症当事者でのドパミンD1受容体の低下と活性化ミクログリアの上昇(Mol Psychiatry 2020)、アルツハイマー病患者での活性化ミクログリアの上昇やα7ニコチン性アセチルコリン受容体の低下(Eur J Nucl Med Imaging 2011, J Cereb Blood Flow Metab 2016, J Alzheimers Dis 2018)、神経性やせ症患者でのセロトニントランスポーターの低下(Neuroimage Clin 2019)を報告しています。

動物実験:行動、脳、分子レベルでヒト臨床研究と対応づけた多層・双方向トランスレーション研究

ヒト臨床試験と連携・対応する形で、マウスおよびマーモセットを飼育して行動実験や介入試験を中心とした研究をしています(図2)。マウスにおいて他個体との自然な社会的行動を観察しやすい集団飼育下における行動について、研究者が介在せずに自動的に行動データを記録し、治療薬候補物質の投与による行動変化についても解析する実験体制を構築しています。それに加えて、豊かな表情や発声コミュニケーションを示しよりヒトに近い社会行動を観察しやすいマーモセットについても多頭集団飼育し、広い飼育室で自然に近いエンリッチ飼育・実験環境における自動行動記録を行える体制を構築しています。これによって、ヒト臨床研究における表情・発話・視線・行動の客観定量解析などについても、相同性を高めたトランスレーショナル研究を実現可能にしています。
図2:多層・双方向トランスレーショナル研究
  • 浜松医科大学子どものこころの発達研究センター
  • 静岡県摂食障害支援拠点病院
  • 浜松医科大学医学部附属病院
  • 国立大学法人 浜松医科大学
  • 静岡県摂食障害支援拠点病院

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